今日は最も有名なトリニダッド料理、Roti『ロティ』について。私も初めて食べたトリニフードはこのロティだった。我々の住むブルックリンにもロティを売る店はたくさんある。たとえジャメイカン料理の店でも、例外的にメニューに入っているぐらい。多くのトリニダディアンがジャーク・チキンを好むのと同様、他の国のカリビアン達もロティをよく食べる。
前回紹介した
ダブルス同様、ロティもインド系移民によってトリニダッドに持ち込まれた食べ物である。トリニダッドのインド系の比率は実に全人口の41%、年々、さらに増え続けているという。アフリカ系ともはや人口を二分するほどだ。さらに別の18%は、インド系とアフリカ系の混血(Dougla ドゥグラと呼ばれる)であると言われている。よって、政治経済から言語、宗教、音楽に至るまで、インド系移民の影響は社会的・文化的に多岐に及んでおり、例えば今日聴かれるソカ・ミュージックには、特にリズム面でインド音楽の影響が顕著だ。もちろんカレー味の料理も大定番で、全国民、老若男女が好んで日常的に食べる。ただし、現地で手に入る材料の種類や、生活様式の差異、また他の民族からの影響もあるのだろう、インド本国の料理とはまた一味違ったカリビアン独自のメニューとなっている。
さてこのロティ、気軽に食べられるが、かなりボリュームのあるスナック。一個で十分お腹いっぱい、一食分にはなる。クレープに似た薄い小麦粉の皮の上に、黄色い豆、イエロー・スプリット・ピーをターメリックやスパイスと混ぜてすり潰したDhalという粉のようなものを撒き、そこにカレー味の具とジャガイモを載せて包んだものだ。大きさはかなり大きい。具を包んで、ちょうど小包のような形に四角くなっているのだが、両手で持って食べるぐらいの大きさでずっしりと重みがある。具の種類は、チキン、ビーフが最も人気。ゴート(山羊)、シュリンプ(海老)などもあり、ベジタリアン向けにはカボチャや青菜など野菜だけの具もある。いずれも下味のセンスとスパイス使いが味の決め手、下手な店だと、肉の臭みが十分とれていなかったりするから要注意。さらに、辛いホットペッパーソースや、Kutchelaと呼ばれる、緑色のマンゴーを使ったマンゴーチャッツネーの一種などを入れてくれることもある。これらの具は、必ずカレー味のジャガイモと一緒に包まれてくるのだが、これがまたホクホクしておいしい。具を包んでいる小麦粉の皮も結構ボリュームがあり、具の肉がなくなるとなんかモコモコしてくるので、ロティを食す際には飲み物を用意されたい。
ロティには一応、食べ方のマナーがある。薄紙にくるんで出されるので、まずはロティを手で持ち、おもむろにてっぺんから半分ぐらいのところで薄紙に破れ目を入れる。で、それを注意深くぐるりと一周はがし、ロティの上半分を露出させてそこから大胆にぱくりと噛み付いて食べる。お行儀よく皿の上に置いて薄紙の包みを開き、フォークやナイフで崩して食べたりしてはカッコ悪いらしい。あくまで手で持って、薄紙をピロピロとうまく剥がしながらスマートにパクつくのが良いそうだ。
我々もよくロティを食べるのだが、ココはどちらかというとダブルスの方が好きらしい。やたらに、今日はダブルス食べようぜ〜と誘われる。うーん、私はロティの方が好きかなあ。もちろん、ロティもダブルスもお気に入りの旨い店がそれぞれ押さえてある。ロティなら、ブルックリンはFlatbush Avenue沿いの見落としてしまいそうな小さな店のものがイチオシだ。通常、ロティの店はインド系のオーナーが経営、調理しているところがほとんどだが、この店は例外的で、アフリカ系トリニの女性が切り盛りしており、私はここのロティが一番おいしいと思っている。一方、ダブルスなら以前にも書いたクイーンズ地区のインド系カリビアン街にある店がベストだ。レストランによっては、ロティの外側の皮だけを売ってくれることもある。中身のカレーは自宅で好みに料理したものを用意する、という手もあるのだ。というのは、この皮、クレープ状に作るのはなかなか難しい。まずかなりの大きさのフライパンがいる。本式では、tawa(タワ)というインドの大きな丸い鉄製の平鍋というか鉄板を使用する。直径は40センチ以上もありそうなもので、それで薄〜く大きく焼くのだ。
トリニでロティというとまずこのクレープ状の薄い皮に包まれた料理を指すが、実はほかにも数種類のロティがある。インドにほど近い、東南アジアはマレーシア料理の名物にもロティがあるのだが、本来ロティというのはこの小麦粉の皮そのものの名前であって、料理を指すのではないそうだ。前述のクレープ状で豆の粉と共に具を包むタイプのものは、Dhalpouri Rotiという種類である。これは最低でも直径30センチ以上の大きさで焼き、普通に具を包んでも良いが、バナナの葉を皿代わりに具と別々に供し、手で具を包んで食べるという方式もあるとのこと。それ以外で、トリニが好んで食べる薄焼きタイプのロティにはParatha Rotiというものがあり、これは別名、Bus-up-shut(バサップシャット)と呼ばれ親しまれている。"burst up shirt"、 つまり、ビリビリに破れたシャツ、に由来しており、薄ーく焼いたものを、さらにずたずたに裂いて供する。少しずつちぎって、カレーソースにつけながら食べるがこれも美味。他に、Dosti Roti、Sada Rotiといった種類もあり、これらは直径15センチぐらい、小さめでどちらかといえばインドのナンの薄いのみたいな感じで、焼き立てはかりっとしている。家でも作りやすいタイプ。インド系の人々が朝ご飯などに軽く食べるロティだそうだ。
ロティもダブルスも、やっぱり美味しいのは出来立て。左写真は自家製のロティとカリーチキン。これはSada Rotiのレシピを参考に作ってみたもの。小麦粉とベーキングパウダー、水をこねこね。紐状に成形したものをヘビのとぐろのように巻き、綿棒で平たく伸ばし、フライパンで焼き上げたシンプルなロティ。ナンよりも軽くて、ぱくぱく食べれてしまう。カレーの方は、本来ロティ用のカレーにココナツミルクは使わないのだが、私はあの風味が大好きなので多めに入れる。ココによれば、その方が西アフリカ風になるそう。皿の上の黄色い角切りのものは、マンゴーのサラダのような副菜『チャウ』と呼ばれるものだ。レシピを伝授してくれたココに、なんで『チャウ』なの?英語のつづりは?と聞いても『いや、とにかくチャウだから』。…それはさておき、この『マンゴーチャウ』、マンゴーを
スコッチボネット・ペッパーのホットソース、タマネギ、塩こしょうなどと和えて冷蔵庫でしばし寝かせたものだが、カレーにも合うし、デザートとしてだけじゃないマンゴーの食べ方としておすすめ。