みんな大好き
Caribビール、
ホットペッパーソースと並んで、T&T(トリニダッド&トベイゴ)ご自慢の特産品が本日のお題、Angostura Bitters アンゴスチュラ・ビターズ。何やら難しい名前だが、一種のリキュール、蒸留酒である。とはいえ、それ自体をゴクゴクと飲むわけでは決してない。カクテルをはじめ、デザート、サラダ、スープ、煮込みなど各種料理に、香り付けとして幅広く使われる、万能調味料的な位置づけなのだ。ブルックリン内のカリビアン食料品店に行けば、レジの後ろの棚に薬なんかと一諸に置いてある。一応アルコール製品であり食料品棚にはないので、レジのおじちゃんおばちゃんに一言かけてから買おう。
Angosturaとは、トリニダッドからは海を挟んだすぐ向こう側、秘境・ギアナ高地を抱える南米・ベネズエラ共和国の地名にちなんでいる。1820年、この地の英国陸軍病院に赴任したドイツ出身の医師、シーゲルト博士が開発した健胃強壮剤がそのルーツ。熱帯特有のハーブや薬草について研究を重ねた結果、独自の配合を生み出すことに成功。軍隊内で医療用として細々と使っていたものが、いつしかAngosturaに寄港する船乗りたちの間でも、船酔いにはコレが一番!と大人気になり、博士は真剣に商業用として販売することを検討しはじめた。
1830年には、向こう岸のトリニダッドと、母国・英国に輸出を開始。やがて生産が追い付かなくなるほど需要が高まり、博士は軍医の職を退いて、Angostura屋に本格的に転身。1870年代には、Angostura Bittersは国際的名声を確立するに至った。
その後、1900年初頭には、政情が不安定なベネズエラから反対側のトリニダッド島へと拠点を移し、Angostura Bittersの秘密の配合は代々受け継がれ、本来の用途であった薬としてよりも、むしろ調味料として、今日のトリニダッドの特産品となったわけである。
さてその特徴だが、ベースとなっているのは、これまたトリニダッドが世界に誇る高品質のラム酒。そこに薬草、ハーブ類のエキスがブレンドされている。リンドウの根から摂った『ジェンシアン』という成分が、Angostura Bittersと呼ばれる所以、独特の苦みを作り出している。(それ以外の配合物は秘密らしい…)
使い方は簡単、カクテルなら、グラスに1、2ダッシュ。やはりラムベースのカクテルなら何にでも合うようだ。他には、モヒート、モスコミュール、マイタイなどにも良いし、ジンに入れても合うそうだ。料理なら、かぼちゃのスープや、ポリッジと呼ばれるおかゆ、魚のスープの
フィッシュ・ブロスに、トリニの国民的メニューの
カラルー、それからカレーの仕上げに入れても良い。肉や魚を下ごしらえでマリネする時に加えても。お菓子ならバナナブレッドやプディング、ケーキ、アイスクリームなどに、ブランデーやラム酒の要領で。まさに万能なので、キッチンに1本あると、非常に便利である。少量で、ちょっとシナモンのようなクローブのような、それでいてラム酒のコクがある、独特の香り高いアクセントがつけられる。
筆者が好きなのは、グレープフルーツジュースにひとたらし。柑橘系にも意外に合うのだ。何やら特別な、高級な感じのドリンクっぽくなるのが良い。オレンジジュースにも良いらしい。もちろん、フルーツジュースだけでなく、お馴染みハイビスカス・ドリンクの
sorrelソレルに入れても。
他には、変わった使い方としては、手足に塗っておくとと蚊よけになるとか。注意したいのは、服につくと洗ってもとれないそうだ。
ところで、商品写真を見ていただくとお気づきになるかと思うが、ビン本体よりも、その周りに貼られたラベルのがどういうわけかデカい。はみ出ている。長年、なんでだろうと思っていたが、Angostura社のサイトのトリヴィアコーナーによると諸説あるらしい。最もそれらしく語られているのは、要するにラベルのサイズを間違えて発注したところ、社内の誰もが『誰か今に直すだろう』と思っていたのだがお約束で誰もやらず(笑)ま、いっか、いいじゃんコレで、内容はちゃんとしてるんだしさ…と何ともおおらかで、小さい事にはこだわらないカリビアンの皆さんらしいエピソード。ミリ単位で発注する日本ではありえないだろう。"a result of the laid back Caribbean attitude"とサイトにはあったが、連中はホントにレイドバック(リラックスしてこだわらない、気取らない)な人達である。我々の展示会の案内状にいつもnot Trini timeとあるのは、それが礼儀とばかり時刻に遅れてくる『トリニ・タイム』感覚のラブリーな皆さんを促すためなのだ。