正当派のトリニご飯。バーベキュー・チキン、ピラウ、カラルー、マカロニ・パイなど。ウマー。
連日、展示会の準備作業でどうにも缶詰状態の我々は、気分転換にと、日曜日の夕方、limeのお招きにあずかった。limeライムとは、カリビアン達(主にトリニダッド人)のちょっとした集まりのことで、ただ、何となくビール片手にたむろしているだけでもライムだし、軽食が出るような気取らないパーティもライムである。今回ご招待くださったのは、ココが件の
『母の日だよカリビアン全員集合コンサート@ブルックリンカレッジ』で知り合いになった初老の男性、Jさん。カリプソのマイナー制作盤を売る手伝いなどを趣味でされており、我々と同じくコンサート会場でブースを出していた縁で、以来、昵懇にさせていただいてるそうな。ココ曰く、年上のおじさまおばさまに気に入られやすい(笑)とのこと。実際、この方の口聞きで、カリプソ界の帝王、Mighty Sparrow マイティ・スパロウ(日本で言うなら北島サブちゃん的位置づけか)にお目通りがかない、サインまでもらっちゃったのだ。そんな大スターのスパロウとは長年のつき合いというJさんは、すでに退職されて悠々自適の生活を送っておられる。
さて、Jさんのお住まいはブルックリンの外れ、Canarsie(カナルジー)地区。我が家から1ブロックの交差点からその方面への路線バスが出ており、20分ほど乗っただろうか。閑静な住宅地区の一角に到着。我々の住むFlatbushの賑わいとは打って変わって、何とものんびりしていて、少々寂しいぐらい。ここからマンハッタンに出るには相当時間がかかりそうだ。が、その代わり土地が広い。お邪魔したお宅は、もう一軒、家が建ちそうな広々とした裏庭つき。そこにバーベキューのできるデッキ、屋根のついた東屋やブランコ、さらには簡易プールまでセットされて何ともうらましいゆとりぶり。近所や親戚のお子様たちが歓声とともに水しぶきを跳ね上げている。ご婦人方は食べ物の準備に余念がなく、すでにバーベキューの焼けるおいしそうな匂いが漂っている。
今回のライムに集まられた方々は、お子様とその親御さんを除いては、40代後半〜60代ぐらいの方々ばかり。オトナな雰囲気でいい感じのライムだった。皆さん、実に堂に入ったライマーぶりで思い思いに楽しんでおられた。そんないい大人の集まりでも、やはり欠かせないのがでっかいスピーカー。しっかり裏庭に鎮座していた。面白かったのが、最初の方はラジオを流していて、テンポの速い最近のソカがかかると、いつの間にか誰かの手によってオールドスクールなソカやカリプソのCDにすり代わっていたこと(笑)。スパロウはもちろん、Black Stalin ブラック・スターリンや、Baron バロンなどがこの日は人気で、ライムの雰囲気をゆったりと盛り上げていた。特にバロンはオバサマたちに人気らしく、皆聴き入っていたのがおかしかった。どうやら、トリニではフリオ・イグレシアスか杉良太郎か、という存在らしい。ご婦人のひとりに、このシンガー誰かわかる?と言われてバロンかな、と答えたら、あら、やるじゃないの〜!と喜ばれてしまった。そしてどんなに歳をとっていても、音楽がかかると踊り出すのはやはりトリニらしいところ!おばさまがでっかい身体を揺らして自在にリズムに乗る姿にはいつもながら感銘を受ける。いかに彼等の人生において、音楽と日常生活が密着しているかを実感。まさに骨の随まで染み込んでいるといった感じ。どんなときも音楽が側にあるのだ。
今回のライムでは、最年少の若僧な上、ひとりだけ生っ白い顔をして見慣れないタイプの客である筆者(笑)にも皆様、実に親切にしてくださった。かと言って特別扱いするわけでもなく、ごく自然に接してくださったのが嬉しかった。カリビアンは基本的に人種混淆の社会に慣れているのだ。もしこれが年配の日本人の集まるパーティで、逆の立場だったらかなりぎくしゃくするだろうなーとちょっと思ってしまった。ひとつ笑えたのは、気を使ってくださったのか、ご婦人の一人がズラリ並んだトリニ料理を前に、『こういうお食事は召し上がるかしら?』と丁寧に聞いてくださったこと!いや召し上がるも何もね、レストラン開こうと画策してますから。とは言わず、ニッコリ笑って『ハイ、いただきます!』とのみ答えておいたが。うちのワイフは一通り、Pelau ビラウ(炊き込みご飯)からCallaloo カラルー(野菜のスープ)まで作れます、とココが話したらみなビックラこいていた。ま、もしトリニダッド人が日本人に向かって『肉じゃがも味噌汁も大好きで良く作りまーす』と言ったら普通日本人としてはびっくりするだろうし、同じような反応なんだろうけれども。
そんなわけで、Jさんの奥様手作りの正当派トリニ料理を賞味するチャンスに恵まれ、いろいろと参考にさせていただくことができた(ピラウのご飯の水加減とか、カラルーの濃度とかもろもろ。)非常においしくて満足満足。ただSouse サウスだけはやっぱりカンベンだった。このサウスは元々はお隣の国、ガイアナの料理である。牛の足のコラーゲン質のところをピクルスにしたような一皿なのだが、ブリーンとした食感も、そこはかとなく漂うケモノ臭もどうも苦手。挑戦したけどやっぱりダメ。うぎゃ。ほとんど全部、カリビアン料理は何でも平気なんだけどこればっかりはカンベン。ちなみに飲み物は、お約束のカリブビールにシャンディ・カリブなんかが、どっさりとクーラボックスに冷えており、その他ラムパンチやピナ・コラーダなども供されてバッチリ。
日が傾くと、東屋の周りに釣り下げられたライトが点灯され、子供達もプールから上がって文字通り大人タイムに。皆さんグラスを傾けつつ、音楽を聴いたり、おしゃべりをしたりとくつろいでおられた。ココはしきりに、うーむ、歳をとってリタイアしたらこういう生活をしたいもんだ、とつぶやいていた。ゆったりと時間が過ぎていき、ひとり去り、二人去り、我々もおいとまをすることに。奥様が、帰り際にどっさり、トリニごはんのお土産を持たせてくださった。Jさんからは『ビジネスをがんばりたいというキミたちのような若者はぜひ、応援したいんだ』と嬉しいお言葉、カリプソ関連の人脈を紹介してくれたり、当日、機材の搬入に良かったら自分の車を使わないかと言ってくれたりと、親切が身に滲みる夏の夜だった。展示会にももちろん、いらしてくれるとのこと。より一層、気合いを新たにした我々である。とか言って、展示会、明日じゃん… もう明日だよ。オイ。
特設プール@裏庭で楽しまれるお子様たち。
大人ライマーの皆様。
Jさん、ごちそうさまでした!奥様にもよろしく。明日、会場でお会いしましょう!