ブルックリン・カーニバルの週末は、3日目の日曜日が最も楽しく、思い出深い一日となった。たった一晩でとてもたくさんの事があったので、なかなかまとめるのに時間がかかってしまったけれど、今日から何回かに分けてお伝えしていこうと思う。
この日は夕方7時から、金曜日に行われたソカの野外コンサート、Brass Festivalと同じ会場にて、カーニバルの前夜祭にあたる"Dimanche Gras"(ディマンシュ・グラ)というイベントが行われる事となっていた。スティールパンの演奏、ダンス・パフォーマンス、カーニバルのキング&クイーンの衣装コンテストなどが観られる、より伝統的、カルチュラルな催しである。我々のお目当てはもちろん、イベント後半のカリプソ・コンサート。大御所カリプソニアンばかりが大集合する、非常に美味しい企画だ。
先日のBrass Festivalの時は、特にファンでどうしても見たいというアーティストも出ておらず、とりあえずカーニバル・ウィークエンドだから遊ぼうというのと、仲間とlimeするためだけに行ったようなものだったので、我々もごく気楽に出掛けたのだが、この日は違う。とある企画が進行していたのだった。
ライム友達の一人、O君は映像関係のお仕事をしていて、ビデオカメラ片手にいろいろなカリビアンのイベントに顔を出す人なのだが、彼はプレス関係者として、大抵のコンサートのバックステージ・パスを手に入れられる立場にいる。そんな彼のおかげで、当日は我々も、関係者以外は立ち入り禁止のエリアに出入りできる事となった。大スター達に、間近で会えるまたとないチャンス到来!例の、我々COSKELとDavid Rudderの出会いとなった
母の日だよカリビアン全員集合コンサートに続く幸運の再来である。もちろん、このチャンスに手ぶらで行くわけにはいかない。急遽、Tシャツを何枚か詰め合わせた、COSKEL特製ギフト・ボックスをあつらえて、アーティストの皆さんに渡すことに。
そんなわけでこの日は、夕方までのほとんどの時間をギフトボックス作成に費やし、出かける直前まで作業が続いた。それにしても、今週末は遊ぼうと行っていたのに、結局どっぷり仕事になっちゃったね〜と、顔を見合わせて苦笑いの我々。が、心底、COSKELに懸けているから、こうして頑張れるのだ。おかげで、満足のいく内容のものができ、今度はニッコリの我々。しかしこれからが勝負である。本当に、無事にバックステージに潜入できるのだろうか?スターの皆さんは、今日に限って、機嫌悪かったりしないだろうか?
イベントの開演自体は午後7時だが、カリプソ・コンサートが始まるのは夜も更けてからなので、ゆっくり出かけようと思っていたところ、O君から電話が入った。彼自身も、イベント前半で、アフリカン・ドラムを演奏するのでステージに上がるとのことだった。それは見逃せないということで、予定を繰り上げて出発。今日は地下鉄でなくタクシーを飛ばして、7時前には会場に到着した。若者の姿は少数、金曜日のソカのfeteとはうって変わって、落ち着いた(笑)雰囲気の会場入り口。カメラ持ち込み禁止、のサインが出ているので、O君に出向いてもらい、筆者のデジカメをさりげなく持っていってもらう。これで、手荷物検査を受けても安心だ。ボディ&バッグチェックの後、会場に入ると、金曜日同様、トリニ屋台が立ち並んでいてまたワクワク。この前食べて美味しかった、ベイク&シャークを、ぜひもう一回食べたい!またあとで来ようと思いながら通過。いよいよバックステージの入り口へ。
ゆるーいカリビアン(特にトリニね…)の、しかも野外での集まりである。一般エリアと、バックステージの間はさすがに頑丈な鉄柵で仕切られているものの、バックステージ自体は決して仰々しくはなく、ごく素朴な印象。支度部屋にあたるトレーラーがぼんっと置いてあり、その周りの階段なんかに人がぽつぽつと座っている程度。入り口のセキュリティガード達(アメリカ人)は、今日の出演者がどれだけスーパースターな人達であるか、全く価値を分かっていないため、それがかえって幸いした。我々一行の中で、O君ひとりがパスを首からぶら下げているだけでも一向に構わず、すんなりゲートを開けてくれて、我々としては大助かり。もしこれが、アメリカのヒップホップアーティストのライブだったりすると、やれ武器を持ってないかとか、誰の紹介だとか、仕事は何だとか、各自パスを持ってないと入れないとか、もう想像しただけでゲンナリであるが。
さて、カリプソニアン達が会場入りするまでには、まだまだたっぷり時間がある。会場を眺めてみると、まだ客の入りもそれほどではない。これから続々と増えてくるだろう。客席に居並ぶのは、中年以降の素敵な紳士淑女ばかりで、非常にマチュアーな、成熟した雰囲気がよろしい。これがカリプソを聴きにくるクラウドなのであり、カリプソという音楽の充実度を物語っている。ステージ準備が整うまで、オールドスクールなソカが大音量で流され、みなさん軽くスウィングされていたりして、大人が普通に、さりげなく踊ってる社会っていうのはいいな〜と感じ入る筆者。カリビアンのこういうところが好きなのだ。
準備が整ったステージ上には、主催者やら政治家やらが出て来て、ごちゃごちゃと支持を訴えたりなんかしていたが、みんな適当に聞き流していた。そして最初の出し物、スティールパンのバンド演奏が始まった。秋風を感じる夕暮れに、ほわほわ〜んと響き渡るパンの音色。何ともオツであった。ただ、アレンジメントにはそれほど工夫がみられず、しばらくすると冗長に感じられてきたのは残念だったが。
彼等がステージを下がる頃、舞台袖には、Moko Jumbieのグループが登場!この、モコ・ジャンビーとは、トリニのカーニバルの伝統的な仮装キャラクターのひとつである。Mokoとは、西アフリカの神様の名前に由来するとのこと。Jumbieはお化け、ゾンビ、精霊といった意味らしい。竹馬に乗っかり、身長3メートル以上にもなる。サテン生地などで出来た派手な衣装を着込み、帽子を被り、まるで巨大なかかしのようなミステリアスな仮装だ。その状態で、自在に歩き回り、踊ったりしながらパレードするのだから、一体、どのような訓練を積んだものかと目を疑ってしまう。彼等がステージへと上がっていく時の迫力といったら。見上げるような高さで、どすん、どすんと地響きを立てながら横を通過するのだから、見ものである。ステージでは、ソカの激しいリズムに合わせて、踊る踊る。すごいものだ。
またしてもドスン、ドスンと音を立てながら、Moko Jumbieたちが引き上げていくと、今度はアフリカン/クレオールの伝統的なダンス・パフォーマンスが始まった。プリミティブで呪術的なアフリカン・ドラムのリズムに、ダンサーたちの肉体が所狭しと力強く躍動する。色とりどりの衣装が入り乱れ、何とも幻想的なステージが展開され、しばし酔わされた。中でも、圧巻だったのが、クライマックスでのリンボー・ダンス!低く低く設定されたバーに、炎(もちろん本物)が燃え盛っており、まさか演出だけだろうと思っていたのが、その下を女性ダンサーが、お見事、本当にくぐり抜けてしまった。驚くべき技だった。
彼らの出番が終わると、今度はカーニバルキング&クイーンのお披露目が始まった。
〜次回に続く〜
写真下が、本番前に打ち合わせする(笑)Moko Jumbieたち。この背の高さ!下の方にいる普通の人と比べてみてほしい。