トリニダード・カーニバルの幕開けを飾る『Jouvert(英語の発音で、ジューヴェイ)』は、伝統的な禍払いの儀式として名高い行事です。フランス語で『始まりの日』を意味するこのジューヴェイは、古い肉体に別れを告げて生まれ変わる、あるいは、新しい再生の夜明けを迎えることを目的とし、合計で2日間のカーニバルのうち、第一日目(月曜日)の深夜2時頃〜早朝にかけて行われます。
参加者はわざとボロを着て、ペンキや泥、オイルなどをお互いの体に塗りたくり、スティールパンを満載したトラックが奏でる曲や、巨大スピーカーから大音量で流れるカリプソ、ソカで踊りながら、朝日が昇るまで街中を練り歩きます。もちろん、NYやトロントなど、海外のカーニバルでも必ず行われるものです。
下写真は、夜が明け切って、ちょうどお開きになった頃でしょう、みんなどろどろです(爆):
昔から、ジューヴェイをテーマにしたカリプソ、ソカの曲もたくさん作られています。ソカの高速トラックとは違うミディアム・テンポで、祝祭的でありながらも、どこか夜明け前を彷佛とさせるようなミステリアスで短調のものも多く、アイアン(鉄くずを利用した打楽器)のアンサンブルも特徴的で、アフリカンなテイストが強いものとなっています。ホイッスルの音に、一種、呪術的に繰り返されるリズム、チャント(スキャットのように聞こえる呪文)使い等が独特で、まさにジューヴェイを盛り上げるにふさわしいものばかりです。
まずはミュージック・ヴィデオ2点で、宴もたけなわの現場の雰囲気を味わってみてください。
初めにご紹介するのは、サッカーW杯のとき、ドイツの街角でド派手な演奏を繰り広げて、世界中からやってきた聴衆を興奮の渦に叩き込んだリズム隊、『Lavantille Rhythm Section』をフィーチャーしたこちらです。見ていて血が騒ぐというかワクワクしてくること間違いなし!:
A Carnival Madness
一方こちらは、ああ懐かしい、クーリオの『ギャングスタ・パラダイス』が曲の元ネタですね〜。その名も『ジューヴェイ・パラダイス』です:
Jouvert Paradise - Ghetto Flex
続いては、今年、NYのラジオ(なんと、有名ヒップホップ局のHot 97でも!)で人気だったMa$tamindのインスト曲に、お馴染みMachelの2003年のヒットナンバーと、バーベイドスのアーティスト、Red Plastic Bagのオールドスクールなクラッシックを3連発です:
Jouvert Fiddler - Da $pirit$
Powder Puff REMIX - Machel & Blaze
J'Ouvert Jam - Red Plastic Bag
カーニバル当日の、華やかな色彩と羽飾りで溢れた仮装パレードが『Pretty Mas』(プリティ・マス)と呼ばれるのに対し、ジューヴェイでの扮装は『Dirty Mas』(ダーティ・マス、すなわち直訳すれば『汚い仮装』)、または泥だらけになることから『Mud Mas』(マッド・マス)と呼ばれています。その昔、トリニダードの首都ポート・オブ・スペインで発生した、圧政に対する市民の蜂起に由来するものとされており、当局の摘発を恐れた彼等が、見分けがつかないようカモフラージュとして体に黒い油などを塗り込めてわざと汚したことが、今も伝統として受け継がれているそうです。そういった歴史的背景もあってか、トリニダディアンの中には、ジューヴェイこそが本物のカーニバルで、最大の楽しみだという意見もあり、こちらにしか参加しない人も少なくありません(うちの相方と彼のクルーがその典型で、ジューヴェイで夜通し馬鹿騒ぎをした後のカーニバル当日は、サヴァナのスタンドでまったりlimeしながら、女性マスカレーダーの品定めをするのが悪ガキの頃からの習慣だとか)。
このジューヴェイ、夜明け前の神秘的な薄暗がりの中、皆でどろんこになって楽しむ、プリミティブで荒削りなところが魅力のお祭り騒ぎで、カーニバル期間中の数ある行事のなかでも特に人気の高いものとなっています。ジューヴェイの夜が明けた後、『Monday Mas』(マンデー・マス、第一日目のプレゼンテーション)に引き続き参加するマスカレーダーは、泥だらけの体を手早くきれいにした後、すぐにプリティ・マスの衣装を身につけて、休む間もなく再びパレードにとんぼ返りです。カーニバル当日は本当にノンストップ、全てを隅々まで楽しもうと思ったら、とにかく体力勝負なのです。
もちろん、勝手に飛び入りして、音楽を流すトラックにくっついて気ままに楽しむのがジューヴェイですが、プリティ・マスにTRIBEやIsland Peopleなど数々のバンドがあるのと同様、ジューヴェイでのダーティ・マスにも、『Jouvert Band』(ジューヴェイ・バンド)がいくつか存在します。有名どころでは、一番人気のYellow Devilsはじめ、
Mudders International、
Play Time、銀色がテーマカラーの
Silver Mudders、ユニークな衣装が話題の新バンド、
Mas Jumbiesなどがあります。プリティ・マスバンドのように、事前登録をして参加費を払えばバンドの一員となることができ、コスチュームや泥(そのバンド独自のカラーの、泥やペイントが配られます)、飲み物、軽食、各種カーニバル用グッズ等がセットになったパッケージが支給される仕組みとなっています。ただし、当然ですが泥だらけ、ペンキだらけになることが前提なので、衣装のほうも羽飾りなどはなく、汚れても支障のないTシャツやタンクトップ、ショートパンツ、帽子などの、ラフなカジュアルウェアが中心です。テーマも、悪魔やアーミールック、あるいはアフリカの部族風などのワイルドでクールなものが人気です。
プリティ・マスほど高額でなく、露出度の高い派手な衣装を着るわけでもなく、またレジストレーションで先を争って大騒ぎする必要もなく(爆)、そういった点で敷居が低いと言えますので、気軽に参加しやすく、またトリニダード・カーニバルの本質が味わえるかと思います。が、暗い中でのイベントですし、大勢の人が集まりますので、当然ながらくれぐれも安全には注意が必要です。参加するには、事前にメールや電話で希望のジューヴェイ・バンドに問い合わせてもよいですが、人気なのにウェブサイトもない、Yellow Devilsのようなローカルならではのバンドもあるので、現地についてから、どのバンドがおすすめか地元の人に評判を確かめた後、直接、マスキャンプ(事務所)に登録に行くのもよいかと思われます。
近い将来、ひょっとしたら我々もこのカテゴリーに参戦するかもしれません(爆)。COSKELブランドのジューヴェイ・バンド、まだ先になりそうですが…そういうお話も来ていないわけではなく…実現したらきっと、かなり面白いバンドができると思います!
上記で上げた有名ジューヴェイ・バンドのサイト、連絡先一覧はこちらから。ページのずっと下のほうにあります:
Trinidad Mas Camp Listing