トリニダード料理といえば、まず第一に挙がるのが人気メニュー、Roti ロティ(詳細は過去記事の
こちらから)だろう。『限りなく一食に近いスナック』で、クレープ状の薄い皮でカレー味の具をどっさり包んだもの。店でテイクアウトするのが一般的だが、これを、『約3分の2ぐらい手作り』するのが、最近の我が家のブームとなっている。要するに、中身となる具は完全に家庭で作り、スキン(皮)のみをレストランから買ってくるのだ。
なぜ皮をつくるのがそこまで大変か?下の写真をご覧いただきたい(筆者の手持ちの本より):
どうだろう、小麦粉から生地をこねるのも大変なら、この大きさのものを一枚ずつ、家庭のキッチンで焼き上げるのも一苦労ではないだろうか?しかも、Dal Puri(ダル・プリ)という種類の、レストランで一般的に供されるロティスキンの場合、レンズ豆を挽いてスパイスで味付けした粉末を生地に折り込んだりするので、より大変だ。
そもそも、皮だけなら1枚あたり1ドル(120円程度)程度で買えるのである。ちなみに、具も詰まった『完全な』ロティは1個7〜8ドルと、実はそれほど安くはない(NYブルックリン内調べ)。しかも、結構当たり外れが多い。皮でなく、中身のカレーの話だ。このカレーが、お気に入りのものを引き当てるのがなかなか難しい。肉の下味が十分についておらず、何となく火の通りが悪くて匂ったり、カレーの風味がイマイチだったり。それならば、自宅で好みのカレーを作って、買って来た皮で包んでしまい、『理想のロティ』を作ってしまおうと。
実は、7月にフラットブッシュを離れ、180度環境の違うコケイジャン人口の多い地域に引越したものの、今までになく理想的な物件が別の地域に見つかってしまったため、10月に再び、今年2度目の引越を敢行した我が家。その結果、期せずしてまたまたカリビアン・ネイバーフッドへ戻ってきてしまった。気に入った物件が偶然今のエリアにあったのだが、これも何かの縁だろうか。やはり離れられない運命なのか?…そんなわけで、今度はフラットブッシュのような商業地域ではない住宅地ながらも、またも自宅周辺にはカリビアン食料品店やレストランがわんさか。ロティを売っている店も、我が家から最初の角を曲がって2ブロック先にある。徒歩3分であつあつロティの皮が買えるのだ。ロティスキンだけくださ〜いといえば快く売ってくれる(ちなみに、そこの店の、中身も含めたロティはあまり美味しくないようだ。残念)。
さて、皮を買いに走る前に、少々時間はかかるが具を用意しておこう。肉は前夜からグリーン・シーズニング(自家製のハーブペースト)に漬け込んでおく。チキン、ビーフ、ゴート(山羊)などが一般的だが、実際のところ、骨つきのチキンはロティにくるまっていると食べにくいし、ゴートは筆者がちと苦手なので、我が家ではビーフの登場回数が最も多い。肝心のカレー粉はもちろん、トリニ産のものを使うべし。我が家の愛用ブランドは『CHIEF(チーフ)』。何故か、酋長=チーフの横顔のパッケージが目印だ(インド料理=インディアン…!?そ、そうなの?)。カリビアンのカレー粉は、香りも味もインドのものよりぐっとマイルドなのが特徴で、辛さはほとんどない。食べる時にホットソースを適宜振って、各自で辛さを調節して食べるのが普通。
それから、忘れてはならないのが、ロティに欠かせぬ味の友、『Aloo Channa(アルー・チャナ)』。アルーとはトリニのインド系の言葉でジャガイモのこと、チャナはガルバンゾー=ヒヨコ豆。すなわち、『豆芋カレー』。ふつう、日本のカレーだと、肉のカレーに芋なども入れて一緒に煮込むところだが、ロティ用カレーの場合には、あえて別々に調理する。そのほうが、煮崩れて肉と混ざってぐちゃぐちゃ、ということがなく、ほくっとした単独の食感がより楽しめる。ジャガイモとヒヨコ豆の組み合わせは伝統的なもののようだ。芋と豆?なんかポコポコしそう…という懸念はない。適度に混ざりあいややペースト状になり、ただジャガイモだけをカレー煮込みにするよりも断然、風味が増す。
右:アルーチャナ、左:ビーフカリー
肉、ジャガ芋のカレーとも、基本的にはタマネギ、にんにくなどの香味野菜を炒め、具とカレー粉を投入、水分を足して煮詰め、タイム、グリーンシーズニング、スコッチボネットの実、ホットペッパーソースなどのスパイス類で味付けする。好みでココナツミルクを入れてもよい。
そうして完成したカレー味の具を、ひとっ走りして買ってきたロティ皮を広げ、風呂敷包みして、熱々をぱくっ。ウ、ウマ〜。カレー自体が、好みの味に仕上げた自家製なので、安心して食べられる。レストランのものよりずっと美味しく、たぶん、今まで食べたロティの中でも一、二を争う味に。
以前、ロティがメチャうまだった店がブルックリンはプロスペクト・パーク付近にあってよく通っていたものの、最近になってシェフが変わってしまい、味が落ちてがっくりしていたのだが…少し手間ひまかければ、これからは旨いロティが食べられるというわけで、偶然の賜物とはいえ、やっぱり、カリビアンのエリアに引っ越し直して良かったのである。