毎年、9月の第一月曜日に行われる、NYはブルックリンのカリビアン・カーニバル、通称レイバーデイ・カーニバル。地元民には、開催場所の大通りの名前から"Parkway"とも呼ばれ、長年親しまれて来たんですが…年々、警察の圧力が強まり、参加規定もずいぶんとうるさいものになってきていることは薄々ながら感じていました。
先頃、NYの有力マスバンドのひとつ
Hawks Internationalが、今年のパレードへの不参加を正式に発表しました。惜しむ声がたくさん上がっています。過去30年以上もプレゼンテーションに参加し、NYカーニバルの盛り上げに欠かせなかった老舗バンドであり、また、CUモデルの子がHawksのコスチュームのモデルも勤めていて、個人的にも馴染みがあっただけに非常に残念です。
Hawksの声明によると、NYPD(ニューヨーク市警)の定めた安全規制の強化に反対していることに加えて、バンド運営のための資金不足が問題になっている他、WIADCA (West Indian American Day Carnival Association)というカーニバルの主催団体にかなりの登録料を支払うことが義務づけられていて、それを不満に思う点も大きいようです。
NYのカリビアン・カーニバルは、絶大な集客力で、たった一日ながら莫大な経済効果(300ミリオンUSドルと言われています)をもたらすニューヨーク市でも屈指の一大イベントであり、また北米3大カリビアンカーニバルのひとつでもあるわけですが、Hawksのような有名マスバンドが参加を断念せざるを得なくなるまで追いつめられるとは… 北米最大のカリビアン・コミュニティとしては憂慮すべき事態です。今回のHawksの声明は、安全面、金銭面における参加条件の悪化に抗議するための、一種のボイコット宣言ともいえるでしょう。
以前の記事で、NYカーニバルの見所は意外にも当日ではなく前夜祭イベントの数々、という内容を書きましたが… そうなってしまったのが残念というか、腹ただしくもあります。マスに興味あるけど、トリニまで行くにはちょっと遠いしなーという旅行者ならば、今年はトロント (カリバナ)、マイアミなどを目指したほうが良さそうです… もちろん、トリニ本国のスケールには比べようもありませんけれども。
あれだけ制約のない自由なカーニバルは、本当に世界でもトリニダードだけだと思います。コスチュームを購入すれば、世界中の誰もがプロのダンサーでなくてもパレードに参加できる、朝から晩まで大音量で音楽を流せる、路上でラム酒も飲み放題(爆)などなど… それで毎年毎年、あれだけ多くの参加者、観客を集め、多少のトラブルはあっても、大きな事件も起こらず無事に開催されているなんて、ちょっと驚異的でさえあります。それはトリニダディアンたちが、自らの国について最も誇りに思っていることのひとつです。本来はそういうカーニバルなのです。
まずNY市では、アルコール類の路上での販売、消費は法律で一切禁止されています(さらに日曜日には、酒店は営業してはいけないことになってます!ほんとに)。もちろん、カーニバルの日は、みんなうまくカモフラージュしたものを飲んだりするわけですが、もし見つかったら罰金です。もうそこからトリニダードとは違うんですよね…
NYは自由の都のように思われていますが、じつは結構、いろいろな規制がかけられている街です。あれだけ違う人種、違う文化を持った人たちが大勢集まる場所ですから、皆が安全に暮らすため、ある程度は仕方がないことではあります。でないと、全く統制が取れなくなり、異人種、異文化間の摩擦も発生することは容易に想像がつきます。
結局、NYのカーニバルと、トロントやマイアミのカーニバルの違いは、トリニ以外のカリビアンの参加があるかないか、です。トロントやマイアミのカーニバルは、都市が小さいこともありますが、トリニ移民が中心のローカルなイベントなので、より本国のものに近い雰囲気を持っています。一方でNYのカーニバルは、以前から書いているとおり、主に英語圏(ハイチなど一部の国を除く)のカリビアンたちの合同参加によるインターナショナルなお祭りです。それが魅力であり幻滅させられる点でもあり、言わば諸刃の剣のようなものです。
もちろん、40年程前、NYでカーニバルを最初に始めたのはトリニ移民ですが、カリブ諸島中から移民が集まってくるNYという土地柄から、次第にトリニ以外のカリビアンの参加者が増えていきました。その結果、年々規模が肥大していく中で、カーニバルにおける本来の『自由』の意味を勘違いし、ただ馬鹿騒ぎする場所と勘違いする若者たち(非トリニがほとんどで、アメリカで生まれた2世3世のカリビアン、あるいはアフリカン・アメリカン達)が出てきて、傷害事件が発生するなど、近年、なんともゲトー感漂う嫌な雰囲気になってきてしまいました… 当然、警察も取り締まりを強化せざるを得なくなってしまったわけです。
北米で最大のトリニダディアン人口を抱えるのは、今でもNYのブルックリン地区であることには変わりありませんし、その数もコンスタントに増え続けており、コミュニティ自体は拡大していっています。にも関わらず、BK在住トリニダディアンの中には、上記で述べたような事情から、NYのはカーニバルじゃなくてただのフェスティバル、ただのパレード、と言い切る人もかなりいます。うちの相方も、俺等のふるさとのとはあまりにも違い過ぎて嫌だと、自らすすんでは見に行きたがらないタイプだったりします…なので、カーニバル当日ではなく、本来のトリニ流カーニバルのあり方、いわばカーニバル・スピリットの真髄を感じることのできる前夜祭イベントに行くほうを選ぶという感じです。
前にも書きましたが、初めて体験する人にとっては、NYカーニバルは十分に面白いイベントだと思います。その熱気に圧倒されることは間違いありません。ですが、過去数年に渡って見守ってきたウオッチャーとしてはやはり、Hawksのような有力マスバンドの戦線離脱にはかなり落胆させられました。…トリニたちよ、それで本当にいいのかと。いつも他の国に自分達の文化を横取りされてないかと。彼等の国民性というか、無頓着で執着のないところが好ましく思えるときと、そうでないときとありますが、こういったニュースを聞くと、やはり後者のほうを強く感じますね…残念ながら。
もちろん他にも、先日ご紹介した
Sesame Flyersなどのバンドがありますが、やはり、ただでさえマスバンドが少ないNYで、Hawksの抜けた穴は大きいです。あーこれで、貴重なコスチュームバンドのひとつがなくなってしまう… その代わりきっと、衣装代のかからないジャマイカンやヘイシャンのTシャツバンドがまた増えるんでしょう…つまんないなあ。
昨年のHawksのパレードの様子が見られる動画をここに貼っておきますね(なんか、ファイルサイズを全然縮小してないみたいで、やたら大きいので注意してください。画質はいいですが)。すごく楽しそうな映像なんですが…彼等の勇姿が今年のロードでは見られないなんて、何とも寂しいです…
Sliver Screen - Hawks International 2006
こちらは彼等の一昨年のプレゼンテーションの様子です。こんな華やかなバンドが丸ごと一個、Parkwayから消えてしまうなんて…やはり残念。