カリブ圏、中でもトリニダード・トバゴで非常〜に人気の高い飲み物ながら、非カリビアンの間では好き嫌いがはっきり分かれると言えそうなのが、『Mauby』(モービー)だろう。
茶褐色で麦茶のような外見の液体のモービーは、カリブ諸島一帯に生息する樹木の皮『Mauby Bark』を各種のスパイスと共に煎じ、砂糖で甘味をつけたもの。濃いめに作った液に氷を加えて薄めたものをいただく。トリニダードで特に人気が高いが、バーベイドスやガイアナ、ヴァージン諸島等、他のカリブの国々でも広く飲まれている。プエルトリコでは、モービーの木を建築の柱に使うこともあるそうだ。
モービーの皮、それ自体に特有の苦みがあるだけでなく、レシピ上、必ず加えることになっているアニスシードの独特の芳香との組み合わせは、かなりクセのある風味を醸し出す。そのため、トリニダードでもどちらかといえば大人に好まれる飲み物だ。
一般家庭でも作られるが、うちの相方などは、幼い頃は父親にモービー屋さんにしょっちゅう使い走りさせられたそうである。その店が、果たしてモービー造りを専業にしていたのかはわからないが、父親曰く、そこの店のモービー以外では絶対駄目ということで、毎日のように買いにいってすっかり馴染みになったそうだ。
そんなふうに、アルコール以外のlime時のドリンクとしても人気がある。たしかに、氷を入れてキンキンに冷やしたモービー独特のしゃきっとするような清涼感は、暑い南国の気候にはぴったりだろう。もちろん、大汗をかくカーニバルの時にも飛ぶように売れる。また、モービーの樹皮には、高血圧や、血中コレステロール濃度の低下に効果のある成分も含まれているそうで、カリブ各地では古くから関節炎の薬としても用いられていたとのこと。健康にも良いのである。
しかしながら、筆者がこのモービーを初めて飲んだのは、NYブルックリンのトリニレストランでだった。当然、気候的に合うわけもなく、『コレ…なんか歯磨き粉の味がするよ…』という感想を抱いてしまった。もともとアニスの香りが苦手であったので、モービー自体の苦みよりもそちらのほうが気になって仕方なかった。以来、モービーをすすめられても、いや〜、やっぱソレルにしときます、とか、ペアドラクスで、などと断ることが多かったのだが、あるとき、とてもとても暑い日に相方が飲んでいたモービーを一口もらってみて、ああ、こりゃ確かにすっきりするわ、なるほどと納得した。やはり南の島の飲み物なのである。
モービーの作り方は、
ソレルの作り方と大差ない。もちろん、作る人によってレシピは異なってくるが、一般的には、モービーの樹皮に、アニスシード、シナモンといったスパイス、砂糖を合わせ、水を加えて鍋で煮出しておく。スパイスについては、ローリエやクローブ、ナツメグ、ローズマリー、ヴァニラ、オレンジビール、ジンジャーなどなどを加えてオリジナリティを出す人もいる。冷めたら液を漉して、甘みが足りなければ調整する(って、カリビアンなら、必ずここでさらに大量の砂糖を追加するのだが)。そうして、濃度の高い原液をつくっておき、飲む時になったら、適宜、砕いた氷を加える、もしくは濃すぎれば冷水で割る。仕上げに
アンゴスチューラ・ビターズをたらすと風味が増す。
家庭やレストランで一からモービーを仕込む人も多いが、食品メーカーが製造した原液が市販されているので、それを買ってきて、水で割ってお手軽に楽しむこともできる。ホットソース(カリブのチリソース)の製造元で有名なMatoukのものが人気があるようだ。原料のモービー樹皮は、おもにドミニカ共和国や、ハイチ等から輸入されているとのこと。また、『モービー・フィズ』という、炭酸で割ったソフトドリンクもペプシから発売されている。
モービーの原材料、それから瓶入りの原液ともに、NYでも手に入る。ブルックリン内のカリビアン食料品店またはスーパーにて販売されているので、ご興味をお持ちの方はぜひ、お試しいただければと思う(ただ、筆者同様、日本人はとりわけアニスシードの香りに慣れていないと思うので、それだけは注意が必要かもしれない)。もちろん、カリビアン・レストランでも飲むことができる。