以下に引用の記事中で、ソカとレゲエの関係について触れられていますが、はっきり申しまして間違っております。そもそも全体に奇妙な文章ですが(特に、ソカという音楽が、あたかも同性愛嫌悪と関係があるかのように読者に誤解させるという点で)、中でも青色で示した部分。毎日新聞に抗議のメール入れようかと思うぐらいです(笑)。
大きい新聞の記事でこういう風に書かれるから、ソカはレゲエから生まれたんだとか、レゲエの一種だ、みたいに大いに勘違いされるんですよね〜。嫌ですねえ。こうやって、カリブなんてどこの国もみんな同じでしょとか、間違った知識が広がっていくんですよねー。大体、レゲエとソカ、ジャマイカとトリニダードじゃ、月とスッポンほど違います。ジャーナリストならちゃんと調べてから書いてください。
調べるのが面倒なら、とりあえずMachelが言ってる事でも聞いといてください。レゲエがルーツだなんてひとことも言ってませんから:
プロに聞いてみよう!What is Soca music?
*************
<MINMI>楽曲提供CMにIKKO出演でバッシング ブログで反論
10月11日12時57分配信 毎日新聞
人気レゲエグループ「湘南乃風」の若旦那さん(31)との子供を妊娠中で、12月に出産を控えているソカシンガーのMINMIさん(32)が楽曲提供した化粧品のCMに、美容研究家のIKKOさん(45)が出演していることが、一部のレゲエファンの間で異論を呼び、MINMIさんの公式ブログの使用が一部制限される騒ぎになっている。
CMは、8月から放送された美禅の「トリートメント・リップ・グロッシー」で、7月に発表したシングル「シャナナ☆」に収録した「MY SONG」が起用されている。だが、MINMIさんが歌う「ソカ」という音楽のルーツとなるレゲエ音楽では、同性愛を認めないというルールがあると解釈している人もおり、ソカシンガーとして世界からも注目されているMINMIさんの楽曲が使用されたCMに、“おねえキャラ”として人気を集めているIKKOさんが出演していることに対し反発した人たちが、MINMIさんのブログに中傷の書き込みを続けたという。そのため、ブログの書き込み機能を制限している。
MINMIさんは、3日のブログで「CMを創ってる“美禅さん”が曲を気に入ってくれてmy song を使ってくれた。ギャラも発生してないし、出演者のキャスティング、内容とかは、もちろん向こうの制作の方やスタッフが決めて、私の仕事のはんちゅう じゃない」と再反論。続けて「もっと日本の今の社会で戦う相手考えたり訴えたりする事があると思う。勇気をもって、自分に正直でいるっこんなタフさとリアルさが私にとってのレゲエ。魂なんか全く売る気ないよ」とつづっている。
MINMIさんは、02年8月、50万枚を売り上げたシングル「The Perfect Vision」でデビュー。ソカアーティストとして楽曲制作・提供のほか、イベントプロデュースなど幅広く活動している。【西村綾乃】
引用元は
こちら
*************
このニュースが大々的にネットで流れたため、ソカと同性愛の関連を知りたくて、当ブログにアクセスされる方が多いようですが… 常連の皆様は、内心、いつCOSKELが反撃するかと、期待されてらしたんじゃないでしょうか(爆)?
短絡的に『ソカシンガー』というレッテルを貼付けて連呼しつつミンミさんを紹介してしまう迂闊っぷりなど、いろんな意味でツッコミどころ満載の記事ですが、まず、はっきりさせておきたい点としましては、
ソカのルーツはレゲエではありません。ソカとレゲエ、どちらも生まれた国も別なら経緯も別、強いて共通点を上げるならば、共にアフリカ音楽がベースにあるということ、また、ヨーロッパ発祥の楽器を用いていることぐらいでしょうか。
ソカのルーツは言うまでもなくカリプソにあります。で、そのカリプソはレゲエよりも数十年は歴史の古い音楽です。そして、カリプソはトリニダード・トバゴ生まれの音楽です。むしろ上の記事内容とは逆で、カリプソこそが初期のレゲエの形成に大いに影響を与えています(詳しくは当ブログの『カリプソ&ソカ』カテゴリーの過去記事にてどうぞ)。
そして、ソカ・ミュージックの変遷と、レゲエの歴史/レゲエを取り巻く文化の間に、ダイレクトな関係はありません。あくまで間接的なものです。カリブの島国同士ということで、かつては同じ英国領であり、地理的にも近いですし、ジャマイカとトリニダードのアーティスト同士の交流があるから生じた間接的影響にすぎません。レゲエがアメリカをはじめ世界的に受けているから取り入れてみようとか、ちょっとサウンド的に今までのソカとは違うアプローチをしてみたいといった程度のものです。その結果発生したソカのいちジャンルに、ラガ・ソカという音楽がありますが、これはソカのトラックにダンスホール・レゲエのサウンドを取り込み、それに合わせてジャマイカンぽいアクセント、フロウで歌っているだけのもので、リリックの『精神』にまで影響を受けているわけではありません。
トリニダード・トバゴのソカでは、ジャマイカのダンスホール・レゲエと違い、同性愛者を攻撃する内容がわざわざ歌われることはありません。これまで、古いものから最新ヒットまで無数のカリプソ、ソカを聴いてきましたが、そういう歌詞を聞いたことはありません。そういった曲でダンス現場が盛り上がるということもありませんし、大ヒット曲になるということもありません。歌詞としては、男女間の情事やトラブル、あるいはルーツ的だったりコンシャスな内容を歌うこともありますが、基本的には、カーニバルに関係したネタが主流です。大抵は、カーニバルっていいな、最高だという内容です。
カリブ圏全体では、特に肉体的な男らしさ、女らしさに魅力を求める傾向が伝統的に強く、また、国によっては敬虔かつ厳格なカソリック教徒が人口の大部分を占めるため、あるいは近年ではエイズ等の伝染病の根源とみなされ、同性愛を忌み嫌う感情が確かに存在します。レゲエといえばのラスタファリズムにも、同性愛は悪とする教えがあります。
トリニダードにおいても、ソカを聴いたり、またwineというダンスを見たりする限り、異性へのセックスアピールが重視される社会であることは明白です。ゆえに、ここでは書きませんが同性愛者を指す隠語もあり、嘲笑や罵倒の対象となることはあります。ですが、トリニダードの社会では、ジャマイカとは違い、同性愛者は即刻罰するべし、抹殺すべしといった極端なバッシングの傾向は見られません。むしろ、特に関心もない人がほとんどでしょう。ゲイに間違えられたり誘われたりしたら困るけど、別にいいんじゃない、個人の自由なんだし、自分は関係ないといったところでしょうか。
そもそも、世界3大カーニバルのひとつに数えられるトリニダード・カーニバル、そのメインイベントである仮装パレード、これをマスといいますが、このマスのコスチュームデザイナーとして、トリニダード国内はもとより、国際的な名声を得て活躍している人々の中には、同性愛者であることが周知の事実となっている人も少なくはありません。また、きらびやかな衣装を着こなすカーニバルの踊り子(男性)のなかにも、同性愛者であることを隠さない人が多数存在します。
トリニダードは元々、アフリカ系、インド系、ヨーロッパ系、アジア系と、様々な人種、階級の人間が入り交じって構成されている国ですし、その結果、今ある姿のカーニバルが誕生したわけです。宗教も、パーセント上ではカソリックが多いものの、英国国教、プロテスタント、ヒンズー、イスラム、スピリチュアル・バプティスト、オリーシャ(シャンゴ)、ラスタファリズムと、様々な宗教が信仰されています。歴史的に見ても、スペイン、フランス、英国の支配を受け、様々なヨーロッパ文化が受け継がれ、多種の言語が話されてきました。経済的にカリブで一番裕福な国でもありますし、カリブ圏ではおそらくもっとも進歩的で寛容、包容力のある社会です。
ソカはカリブ圏においては、実はレゲエよりもパワーがあります。何たって、各地で行われるカーニバルのオフィシャル音楽ですから。レゲエでカーニバルはやりません(というか、できませんね、レゲエのリズムではwiningもchippingもできないですから)。もっとも、カーニバルのオフシーズンにはレゲエのほうが人気があるでしょうし、世界的に有名なアーティストが多いのも圧倒的にレゲエですし、アメリカや日本で売れているのもレゲエですし、それは残念ながら事実です。
トリニダード人はどういうわけか、国民性なのか、自らの文化を愛する気持ちは強いものの、それを広めたり守ったりといった行動にはおどろくほど無頓着な人たちなので、いまだにそういうポジションに甘んじています。というかむしろ、要は、自分達が楽しくパーティできることが何よりも大切だと考える人たちなので、その目的さえ達成されれば満足なのですね。
ですから、ルーツであるカリプソの精神にのっとった啓発的、教訓的、あるいは社会風刺的な内容の曲を発表することはあっても、わざわざ、他者、なかでも自分と異なる人間への憎しみをあおり、そういった人たちへの攻撃を煽動するようなものはそもそも出てきません。ステージに立つアーティストの気持ちは、『今日は来てくれてありがとう、飲んで踊って楽しくパーティしよう』それだけです。
Machelが言っているように、ソカは究極のパーティミュージックです。パーティのために作られパーティのために消費されていく音楽です(そして、国を挙げた最大のパーティが、カーニバルです)。その点からしても、ゲトーのリアルな現実、あるいはギャングスタ(ルードボーイとかヤードマン)の生き様を描き出すといった事に命を賭けるダンスホール・レゲエとは方向性が根本的に異なります。
どちらが硬派だとか軟派だとか、優れているとか劣っているとかいった問題ではなく、ただ単に、ジャマイカとトリニダード、それぞれの社会構造の違いが、それぞれの国を代表する音楽に託したメッセージの違いにも大きく影響しているということ、両者は全く違う音楽同士だということを理解していただければと。そのように感じるわけです。