このトリニ語コラムなんですが、毎回、どういうカテゴリー分けで掲載しようかなーと思って悩んでいまして、ABC順に載せれば一番早いんですが… 何とかシチュエーション別に分けてきましたので、今回は、読者の方からリクエストを頂いていた『トリニ語でのあいさつ』について書いてみたいと思います。
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さてさて。友達同士で会うとき、日本語なら『元気〜?』『最近どう?』といった感じで会話が始まることと思う。英語なら、"How are you?" "What's up?"などの表現がポピュラーだろう。こういったフレーズはトリニダード語だとどうなるか。
"How you goin?" (はう ゆー ごーいん)
"How tings?"(はう てぃんぐ)
"Wha goin on?"(わ ごーいんおん)
"Whappenin?"(わ〜ぁぷにん)
"Wham now?"(わ〜ぁむなう)
"Wha vibes?"(わ �ぁいぶ)
"Wuz de scene?" (わず でぃ しーん)
何やらたくさんあるが、いずれも、『どうしてる?』『どうなってる?』『どうよ?』といった感じで、かなりくだけた表現だ。
これらの挨拶に返答するには、
"Going good"(ごーいん ぐー)
"I Good" (あい ぐー = I am goodの意)
"Aight"(あ〜い = All rightの意)
など、『いい感じ』『順調だよ』というニュアンスで応えればよい。なお、"Wuz de scene?"に対して"No scene"(のー しーん)という答え方もあり、これは"no worries or no fuss"の意味で『別に何もないよ』『心配ない』といったところか。
一方、うちの相方コラーニさんはいつも、なぜかこういった挨拶には決まって、『あいで〜、あいで〜』と応じている。これまで『あいで〜って…何?』と思いながらも聞き流していたのだが、本稿を書くに当たり改めて本人に確認してみたところ、「え?そういや深く考えたことなかったな〜」と苦笑しつつ教えてくれたのが、
"I dey"
というもの。この"dey"とは、英語の"there"が訛ったものである(ちなみに、"where"はトリニ語では"whey"で、同様に"ey"で終わる)。"I dey = I there"で、『俺ならここにいるぜ』、すなわち"This is where I am at"とか、" I am here"といった意味だ。フィーリング的には、"I dey chilin"とか、"I dey limin"のように、『今?テキトーにチルしてるよ』とか、『limeしてるよ(たむろってるよ、和んでるよ)』の略でもあるらしい。
しかしトリニは、"there"だけでなく、"they"も同じく"dey"と発音するので、何だかわかりにくいかもしれない。とりあえずは、英文法の語順からして、文末に"dey"が来たら場所を指すほうの"there"の意味であろう。
また、これは主に男性同士でのあいさつになるが、お互いに呼び合うとき、
"Jed" または "Dred"(いずれも発音的には、じぇっど)
と呼ぶ。これも、筆者がなかなか聞き取れなかった単語だ(じぇい、と言っているのだと思っていた)。"Dread"が変化したもので、ラスタファリアン同士(ドレッドロックス=いわゆるドレッド・ヘアが特徴)の挨拶から来ている。他にトリニ語では、もともとの単語から"a"が抜け落ちる例として、"real"が"rel"となって英語の副詞の"really"の代わりに使われるものがある(過去のトリニ語コラム参照)。それはさておき、この"Dred"という呼称、別にラスタでない人でも使ってよい。一般に、年齢が比較的高いトリニダディアンの間で使われるとされている…けれども、うちの相方は(一応はまだ若者に入るほうだが)よく使っている語だ。
同様に、
"Padna"(ぱどな)
という語もある。これは"Partner"の意味。パートナーというと、アメリカ英語の場合、人生のパートナーとか、ビジネスパートナーとか、あるいは性交渉の相手を指したりと広範囲に機能する語だが、トリニのいう"Padna"は米語の"homeboy"に等しく、近所の仲間とか、『ダチ』『親友』といった意味になる。
一般的に黒人男性同士が、"Brother"や"Son”などと呼び合うことは広く知られている。トリニも、"Bro"(ぶろ・ブラザーの短縮系)や"Bredda"(ぶれっだ・同じくブラザーの意)等をよく使うが、より相手を敬うかたちで、
"Aye, King!" (あい、きんぐ!)
『キング=王』と呼ぶことがある。これは年下でも同い年の相手でも、自分にとって大事な友人ならば使う。一種のカジュアルな敬語のようなものだろうか。アメリカ黒人男性が仲間内で頻繁に使う、かの悪名高い『ニガー』という蔑称とは対照的な概念を持つ語だ。"Ay"または"Aye"というのは、トリニがよく使う、"Yo"とか、"Hey"の意味である。
そのほか、『Boss(ボス)』と呼びかける場合もある。これは文字通りの『ボス』で、通常は目上の人に対してカジュアルなノリで使うが、同年輩、目下の人に対しても、『King』同様にリスペクトの意味で使ったりもする。いずれも、男性言葉であって、女性はまず使わないと思われる。
それでは、女性同士だとどうか。
"Gyul" (ぎゃる=ガールの意)
"Chile" (ちゃいる=チャイルドから来ていると思われるが、南米系のスラングで、セクシーな女の子の意という説もある)
と呼びかけたりする。また、主に男性が女性に声をかけるときに、『そこのかわいこちゃん』なニュアンスで使う呼び方に、
"Dahlin"(だありん)
というのがあるが、英語の"darlin"と綴りも発音も若干違うのがトリニ流。女性同士でも、親しみを込めた呼びかけとして使われることがある。
それでは、別れの挨拶となるとどうか。
"Lata"(れいた)
"Laters" (れいたー)
"Later Vibes" (れいたー �ぁいぶ)
などがある。いずれも、"Talk to you later"や、"See you later"の略で、特にトリニ語の表現ではなく現代英語スラングに分類される語だが、大抵のトリニは、別れの際にByeと言わずこれらの語を使う。
また、ラスタファリアンの場合、
"Bless"(ぶれす)
と言い残して去っていく、あるいは、メールなどの文章を〆る場合も多い。これは宗教的な意味合いがあり、"Jah Bless"の略である。米英なら"God Bless (You)"で、神のご加護をとか、あなたに幸あれといった意味になる。ラスタ以外の人も使っている語だが、特に友人がラスタだったりするときはそう言ってあげよう。
もっとも、トリニ語とは"local diarect"、すなわち(英語の)方言である。トリニダディアンとコミュニケーションするには、イギリス英語でもアメリカ英語でも構わないので、あいさつも含めてごく一般的な英会話ができればOKだ。なにも現地人のようにトリニ語を操れなければいけないということはない。東京の人が大阪に行ったからといって、別に関西弁で話さなくてもよいのと同じだ。スラングとか方言というものは、意味さえわかってさえいれば十分ではないかと思う。
特に、このコラムで紹介しているトリニ語は、ごくカジュアルな場、親しい間柄での使用が前提だ。初対面やほんの数回会った事がある程度の相手、あるいは目上の人などに対しては、いきなり『わ〜ぁぷにん?』などと言わないほうがよい。通常は、"How are you doing?" や、"Nice to meet you”、"Good afternoon (good以下は、morning, day, evening, night等、その時間に合わせればよい)"といった、基本的に丁寧なあいさつができれば全く問題ない。むしろこのコラムを読むよりも(爆)、中学校の英語の教科書を引っ張り出してきて読んだほうが(我々日本人にとっては)、よほど実用的だろう。
トリニダードはフランスやスペイン、英国等の支配を受けてきた歴史を持ち、ヨーロッパの階級文化の影響が今も残っている社会。きちんと教育を受けた話し方ができて当然という認識が強い。そんな紳士淑女的な折り目正しい面と、ラフでタフな面の両方が顔を覗かせるのが、この国のもつパーソナリティの複雑で面白いところだ(それがCOSKELのメインコンセプトでもあるわけだが)。
年配の人では特に、若い時はさぞかしワルだったんだろうな〜というコワモテの人でも非常に折り目正しい話し方をするし、どんなに暑くても、帽子にシャツとスラックス、革靴を身につけて出かけるような人もいたりする。少なくとも、今の若者たちの祖父ぐらいの世代では当たり前だった習慣だが、何ともギャングスタでカッコいい。カリプソニアンはそのダンディズムを今に伝える存在といえる。特に、KitchenerやRoaring Lion、Invador等の古いカリプソの歌詞を聞いていると、非常にきちんとした発音、文章で綴られていて、いかにも英国的だが、内容自体は軽妙かつ鋭い風刺の効いたもの、あるいは比喩を効果的に用いた性的なものが多かったりして、その落差がまたとても洒落ていたりする。
写真下:『わ〜ぁぷにん?』まったりとLimeを楽しむ現地のおじさんたち。